最終作品 選評

受賞作 選評

金賞
『ロストカゾク』
「ヤンキー」のとおる、主人公・ヒラナリのからみ、出だしから期待がふくらみました。とおる一家のそれぞれのキャラがとても魅力的で、彼らを通して「カゾク」の素晴らしさがよく描かれています。「リストラ」「いじめ」「ニート」などの社会問題も設定にさらりと入れていて、今の時代感を表しています。展開が楽しく、キレイな伏線とともにラストまで一気に読ませてくれます。作者は人の機微をよくわかっていて才能を感じさせます。ラストのドンデン返しも「夜露死苦ぅ!」も含め、マジ最高っす!

〈ジュニア編集者の感想〉
私は今まで学校の中で起きる青春の物語が好きで、冒険の話はあんまり好きではなかったけれど、そんな私でも楽しんで読める話でした。特に81ページは、すごくおもしろくて大笑いしてしまいました。でも、泣ける所もしっかりあって、そのギャップがおもしろかったです。/この世界はドラえもんがいるみたいで読んでいておもしろかった/今の時代ではなじみのある人たちを「絶滅種」としてとらえているのでファンタジーだけど日常も見えていてお話の中に入っていきやすくてとてもいい設定だと思いました。

金賞
『両想いになりたい。』 
生徒会での出会いという、青い鳥っ子にはあこがれのシチュエーション。ありふれた日常をドラマチックな恋愛ストーリーに仕立てる上手さを感じました。ニヤニヤというよりニタニタしながら読みました。文章やセリフがリアルなので、すぐにお話の中に入り込み、主人公ふわりになりきって、ドキドキしながら初恋を体験できました~! 「シンデレラ」のようなハッピーエンドに、胸がスカッとする読後感もすてきです! クライマックスシーンは涙が思わずポロリしてしまい、少女ゴコロが刺激されて気持ちよかったです。

〈ジュニア編集者の感想〉
あらすじで結末を知ってはいたけれど、そんなことも忘れてドキドキしてた/「生徒会」を舞台とする物語ははじめてでよいと思った/スピカは「ただ悪者」でなくて良い点もあるところが書かれて気持ちがよかった/地味だけど、がんばっている姿を見て、自分もがんばろうと思った/最初の子犬になった夢が五十嵐君との出会いにつながったところや、いつも笑わない五十嵐君がふわりと過ごすようになって笑顔が増えたところ、登場人物一人一人に物語があって、それぞれの立場になって楽しめるところがよかったです。



短編賞
『最強男児ゲンタくんvs花子さんッッ!!』
少年マンガのノベライズのような感じで、文章が斬新で、小6で180cmとか、ありえないでしょ!とつっこみながらもすっごく楽しく読みました!「格闘+オカルト+少年探偵団」と、人気の要素をうまく組み合わせています。タイトルにもありますが、「ッッ」という勢いのある語尾がクセになりますね。ラストのほうで、男子3人が花子さんに対して見せる優しさが、またなんとも素敵。ぜひ男の子に読んでもらいたいです!

〈ジュニア編集者の感想〉
ゲンタの超人離れした話がおもしろいです。バトルシーンは読むと元気が出ます。



短編賞
『芽衣ちゃんと季節外れのサンタクロース事件』 
ぶっ飛んでいて、おもしろかったです。先輩の暑苦しいキャラ、イケメンだといいな(←個人的なイメージ)……。めちゃくちゃなところもありますけれど、勢いよく物語が進み、学校に秘密組織が!っという設定にワクワクします。教頭先生とのギャクのような戦いもセンスが光ります。読者が突っ込める余地を作れる点も、エンタメ性が高くてすばらしいです。冒頭から結末まで笑い倒しました。

〈ジュニア編集者の感想〉
本当に学校でありそうな特徴や部活で、親しみができていいと思ったし、たいへんなことがたくさんあるけど、こんな学校で生活してみたいなと思った。登場人物がみんな個性豊かでおもしろかった/この話が本になったら、友達にすすめたいと思いました/「自信のなさは優しさの表れで、ひたむきな努力につながっていると思う」という言葉が心に響いた。登場人物、とくに芽衣と礼奈の行動や性格がおもしろい



◇U-15部門
大賞
『神様の救世主』
「描こう!」という姿勢に高い作家性を感じます。人間の欲や身勝手さも描かれていて、10代とは思えない、文章の巧みさ、展開。情景描写も上手です。神様が抱える悲しみがちゃんと伝わってきます。これまでは妖魔を退治するのが本流ですが、ついに神を斬る世界がやってきたのか!!と非常に興味をそそる冒頭の文章から、GOD先輩の登場など、もうどうなるの?と次が気になり読まずにはいられない気持ちにさせられます。ちょっと過激な描写も遠慮なく入れてくれているところも好きです。最初の人形神の話にもすっかり感動して泣けてきました。

佳作
『Let us play the guitar!』
「芸ごと」を扱った作品としては、楽器や演奏技術を詳細に描けていてかなりよいと思いました。「悲しいから母の思い出を忘れたい」から「お母さんより上手くなるから、見守っていて」への主人公の心の変化がじ~んときました。ギターの彩先生と母との昔の関係や春陽の柚衣への初恋のエピソードも、ストーリーに奥行きを与えています。「愛する人を忘れない」はとてもいいテーマ。このお話の5年後も読んでみたいです。

佳作
『キミとの好きは強いから』
恋愛余命設定をまっすぐに描き切っていて、非常に読みやすいです。タイトルが秀逸で、そのタイトルを最後に回収しきったのも立派でした。大和が、女の子の求める「理想的な王子様」で、告白の仕方も上手で本気で恋しそうになります。書き手である11歳の才能には驚かずにいられません!おかれてみたいシチュエーション、言ってほしいことば。まっすぐに好きな気持ちがあふれていて、最後の手紙は十代のストレートな気持ちで書かれているから余計に泣けてきます。言葉選びのセンス、よすぎです!

◇特別賞
はやみねかおる賞
『ミッションクリア』
はやみねかおる先生より
応募作品の善し悪しは、作品に「読ませる力」があるかないかで決まると思います。
 その「読ませる力」は、「文体の魅力」や「情景描写」、資料を調べたことによる「説得力」や「リアリティ」などではないでしょうか。
 候補作を読んでいて、それらが少なかったように感じられました。
 原因は、書き手の体験や知識の不足ではないかと推測します。共通して、頭の中だけで書いているように思いました。
小説は、体験しなくても書ける(でないと、殺人が出てくるミステリーは書けない)が、できるだけ多くの体験をすることは、物語に厚みや説得力を持たせます。そして、多くの体験が、「書きたい」「伝えたい」という思いになるのではないでしょうか。
 また、もっと資料を調べてほしいです。昔のように図書館にこもったり、古本屋で資料探しをしなくても、今はインターネット等で簡単に調べられる。少し調べればわかることも、なぜか調べずに書いていて、もったいないです。
 あと、登場人物が記号になっている作品が多かったように思いました。情景描写もあまい。もっと、読者に「わかってほしい!」と思って書いてほしいです。
そして、読んでもらう対象のことを考えてほしいです。
 子ども向けの作品を書くのなら、絶対に忘れてはいけないことです。上から目線ではなく、「自分が子どもだったら、どう思う?」という視線で書いてほしいです。
「読んだ人は、どう思うだろうか?」ということに、もっと意識を向ければ、どの作品もさらに良くなると思いました。
 
『ミッションクリア』を賞に選んだのは、他の作品に比べて、物語のまとまりがあり、描写もできているので情景がわかりやすかったからです。
導入もじょうずで、登場人物の書き分けができています。マジックについての知識が物語の中で活かされています。作者の年齢を考えれば、じゅうぶん合格レベルです!
また、事件を解決するに当たって、子どもたちが子どもたちなりに一生懸命考え答えを出し実行している点には、とても好感が持てました。「子どもだから」とか「子どものくせに」ということに負けず、「子どもたちなりに」頑張る姿勢は、物語全体をさわやかにしています。
 課題としては、よく知っている学校を舞台に選んだのはよかったですが、他の点(教師が馘首になるとき、統廃合の流れなど)を調べずに書いていることです。もったいないと思いました。そのため、最後のほうへ行くにつれて、残念な感じになっています。少ない枚数で、きれいにまとまっているだけに、惜しいと思いました。
これから作者が成長し、今持っている「子どもの気持ち」にプラスして多くの体験や知識を得たときに、どのような物語を書いてくれるのかとても楽しみです。



最終選考作品(順不同)

『雨の火』

情景描写がきれいで、ストーリーもよくできています。麦と紬、どちらも人物が多面体で描かれていてよいと思いました。雨と火という剋し合う関係性からロマンティックなラストまで、独特の世界観が展開されています。いじめがいかに矮小なものであり、力関係は小さなきっかけで転換することが表現されていて普遍的な物語になっています。ファンタジーよりの設定については好みが分かれている部分も。

 

『見取り図探偵の挑戦』

力作です。「読者を楽しませよう」という工夫は随所に感じます。謎解きだけでなく、友情や老作家との触れ合いなど人情味もすごくしっかりと書かれています。わかりやすくする工夫、読者を驚かせようとする工夫など見事です。著者の執念にも似たサービス精神に感動しました。とんち系&クイズ系で徹底するのか、本格推理でいくのか、コンセプトをシャープにできるとなおよいと思います。

 

『水原と竜の都の伝説』

序盤から上手な設定でチフォ島というファンタジックな世界を構築しており、独自の言葉で読者を引き込みました。登場人物も多すぎず、とても面白く、すいすい読めました。メッセージ性があるところもすばらしいです。20代という若い才能ですし、リアルな世界に軸足を置いた作品も読んでみたいと思います。

 

『知らないもの引取所』

<誰かにいらないといわれた気持ち>を共感できる、非常にやさしい作品。叙情的な世界の中に、強いメッセージがあります。自分の存在を否定されることの悲しみ、そして必要とする人を幸せにしていくという物語に、心が浄化されます。シリーズ化するよりも単行本向けだと感じる作品でもありました。

『名探偵エジソン&ホームズ』

天才発明家のエイジのキャラクターがいいのと、モリアーティにちなむ森矢先生もワルで、最後までハラハラドキドキしながら楽しめました。3人の役割分担がある点&必要な道具を作れるという設定はいいと思います。もっと大きな事件を解決できると、さらにいいと思いました。

 

『呪いのメイズさん』

「養小鬼(ヤンシャオクエ)」ということは台湾の民間に広く信じられている風俗で、しっかりしたリサーチにまず感動しました。迫力がとてもあり、話の道筋もわかりやすく、いじめっ子の造形など、定型をおもしろく書ける才能は、子ども好みですし、行間の伝記的な感じも粘着的で印象に残ります。“メイズ”というタイトルのセンスがよく、“メイズ”のキャラクターもよく立っていました。ホラー短編も読んでみたいです。

 

『死神に悩み相談しませんか』

ユーモアと悲哀に満ちた文章で、物事に対する鋭い観察眼のある方だと思いました。これだけの分量を、飽きさせずに読ませる構成力も抜群です。死神リーフのとぼけキャラが秀逸で、主人公の「天使ちゃん」、杏樹との会話のやりとりが本当に楽しかったです! 主人公なしでは成立しない(主人公が傍観者にならない)物語に消化できれば、さらによくなると思いました。

 

『今日から私が桃太郎!』

ぐずぐずした主人公の成長、応援したくなります。会話のテンポがよく、するする読めます。ツンデレ犬養くんとの関係の変化も心地よく、一気読みでした。構成と設定を一ひねりして、桃太郎の既定印象をくつがえすだけではなく、もっと遊びがあってもよかったかもしれません。

 

『愛と恋とは溶け合わない』

超絶美男子と優しいイケメンの、純粋な恋愛感情が描かれていました。青い鳥にもこういう作品があったらいいですね。ただ、青い鳥なら、当事者の葛藤という部分を超えて、むしろどんな愛も恋も当たり前の世界として描いてもいいのかなと思います。

 

『オレとタヌキの花嫁奪還作戦』

ウェルメイドな作品で、たいへん好感をもちました。リズムがよく、エピソードを短いページで処理できるのも、いまの児童文庫のトレンドをとらえています。主人公の樹やタヌキの忍び・黄介など、登場人物が生き生きとしていて、映像が立ち上がってきますが、展開にもっと驚きたい気持ちが残りました。

 

『B棟四階の魔女』

期待を膨らませるあらすじ。魔女と七不思議というストーリー、西洋の魔女と日本の座敷童などを混在させるたのは新鮮で、おもしろかったです。一方で七不思議を消化しきるために後半は長く感じました。

 

『小学生巫女は、四神の花嫁!? 』

神が花嫁を取り合うという花嫁争奪戦は少女漫画の鉄板ながら、王道をやろうという姿勢はとてもよいです。するする読める軽妙な展開、イケメンぞろいの設定は引きが強そうです。メイン以外の、ほかの男子たちの書き分けがあまりシャープでないところがもったいない気がしました。

 

『とりかえばや』

シェイクスピアや古典、昔からある設定に好感が持てます。ジェンダーをテーマにしていて、「男か女かということより、個性を大事に」というメッセージに共感できるし、凜、太陽、美鈴のような子がどんどん増えていけばいいなと思いました。自分を偽っていることに変わりはないというかえでの気持ちの揺れに共感できます。双子ならではの悩みをもっとリアルに描ければと思います。

『ユズハナ・リンク』

どぅわ!? ズムン! はぐっ!? 言葉と文にリズムがあって、読んでいて楽しめました。連作短編になっていて読みやすさという点でもプラスかと。途中で花子(ハナ)がユズに出会う前に、子どもたちにけなげに声をかけていて無視されたところが、冒頭につながっており、しびれましたし、そこから一気に花子ファンになりました。「花子」という、児童文庫ではおなじみの「おばけもの」ゆえ、花子の設定含めもう少し個性がほしいかな?