第9回

2019年03月15日

 Scene05 10月28日(日曜日)
“鷲の巣村”探訪からの続き~



 午後3時頃、ニースに戻る。
 一度ホテルに荷物を置いてから、いよいよお土産探し。
 最初、大きなデパートへ行く。山室さんの話では、日本のイオンのような店とのこと。(そう教えてくれる山室さんは、「waonカード」を知らなかった。ぼくは、来年になったら55歳から使える「G.G WAON」のカードを作るのを楽しみにしてるのに……)
 山室さんは、編集部へのお土産を、慎重に選ぶ。
 ぼくは、琢人への土産――タイピンを探す。店員さんに、日本語で「すみません、タイピンを見せてください」と言ったら、やっぱり伝わらない。
 いろいろ手振りを交えて説明して、ようやくタイピンを出してくれる。(約10分経過)。
 琢人は地味なものを希望と言っていたので、一番地味なタイピンを選び、お金を払おうとしたら、現金はダメでカードオンリーとのこと。
 カードで買い物なんて、日本でもやったことがない。頭の中で、「ドレミファだいじょーぶ」が響き始める。
 店員さんの出す機械に、カードを差し込む。小さなディスプレイに二行ほど文字が出る。眼鏡をしてないので、読めない。(正確に書くと、眼鏡をしていてもフランス語なので読めない)。
「ドレミファだいじょーぶ」の音量が、だんだん大きくなる。
 ぼくは、日本語で店員さんに訊く。
「なんて書いてあるんですか?」
「円で払いますか? ユーロで払いますか? 円で払うのなら、1番のキーを押してください」
 と、フランス語で言われる。
 この頃になると、お互いに、なんとなく何を言ってるのか理解できるようになっていた。
 ぼくは1番のキーを押し、続いて暗証番号を押す。
 領収書が出てきて、買い物成功!
 頭の中で、近石真介さんが、「よくがんばったねぇ~! えらかったねぇ~!」と褒めてくれた。
 最後にサインをして、タイピンを受け取り、店員さんに日本語でお礼を言う。
 別れ際、店員さんに「おうぼう」と言われる。これは、ぼくのことを「横暴」と怒っているのではなく、「オ・ルボワール(さようなら)」というフランス語だと、さすがにわかるようになっていた。



アピールしてるのに、金があるように見えない……
 ぼくは、買ったものを入れるために、風呂敷を持っていた。
 だけど、タイピンの入ったデパートの紙袋を、風呂敷の中には入れず、外から見えるように吊す。
 これは、デパートで買い物できるお金は持ってるんですよというアピール。
 よく海外では、「お金を持ってることを、周りに知られないように。強盗に狙われます」という注意がある。しかし、ぼくの場合は、「お金は持ってるんですよ」というアピールをしないと、店員さんから怪しまれるということをフランスで学んだ。
 強盗?
 大丈夫、ぼくには山室さんがついている。
(真似する方は、自己責任で――)


 デパートの次は、初日に言った展望台の近くへ行き、塩やコショウ入れを買う。塩は、ガラスの細長い瓶に入れて売っていた。
 英語を話せる店員さんと山室さんが会話し、いろいろ説明を聞いていた。
 塩は、瓶3本の値段で4本買えるとのこと――。テレフォンショッピングみたいな売り方は、フランスでもやってるんだと思った。
 夕食は、近くの店で、牡蠣とワイン。
 牡蠣には、レモンやビネガーをかけて食べるのだが、はっきり言って、醤油がないのが哀しい……。
 フランス人にも、一度、醤油で牡蠣を食べてもらいたい。


 ホテルへ帰る途中、ネオポリ(※←モノプリです。)のスーパーマーケットへ寄る。
 巨大なサラミとビールを買う。これは、フランス最後の夜を、部屋で楽しむための食料。あと、夜食にバンザイヌードルを買う。山室さんは、テリヤキヌードル。
 そして、お土産用にグミ。
 このグミは、家族から不評だった。第一に、ものすごく甘い。あと、後味がスパイシー。確かに、袋の表には「SPICE」と書いてある。
「なんで気づかなかったの?」と非難を受けたが、はっきり言って、もう横文字は見たくなかったのだよ。 


 山室さんと別れて、一人で買い物を続ける。
 奥さん用のお土産にシャネルの5番を買う。というか、他にフランスらしい土産を思いつかなかったので、これで勘弁してもらうことにする。
 タイピンを買ったデパートに行き、シャネルの売り場へ――。看板が読めなくても、匂いのきつい方へ行けば、だいたい化粧品売り場だ。
 日本でも化粧品売り場の匂いはきついが、フランスは2倍ぐらいきつい。早めに買い物をすませないと、鼻がおかしくなるレベルだ。
「CHANEL」という文字を見つける。さすがに、これが「シャネル」ということはわかった。(少しだけ、「チャネル」というメーカーかもしれないという心配があったけど……)
 一番安い箱を2つ持って、店員さんに「これください」と日本語で言う。2箱もあれば、死ぬまでもつだろう。
 このとき、すでに、カードを手に持っている。
 次に店員さんが言うのは、わかっている。機械を出してきたから、これにカードを差し込めと言うんだ。その次は、円で払うかユーロで払うか――。
 相手の言動を完璧に先読みする。気分は、武道の達人だ。
 支払いを終えると、店員さんが、紙袋の中に、引き出しから出した小箱をダバダバと入れてくれた。
「何を入れたんですか?」と英語で訊くと、「ギフト」との答え。(さらっと読まないでくださいね。英語で訊いたんですよ)
「ギフト」が、頭の中で、「お歳暮」とか「贈り物」という言葉に変換される。
「えー、いいんですか! ものすごくうれしいです! ありがとうございます! フランスの人は、優しいですね!」
 日本語で大喜びしたら、違う引き出しから、もう少し大きめの箱を3個入れてくれた。
「ありがとうございます!」
 フランスが大好きになった瞬間だった。


 次に買ったのは、彩人のベルト。
 あと、自分用の財布。(100円ショップで買ったものを愛用していたのだが、さすがに人前で出せないほどボロボロになったので……)
  大量の紙袋を持っていたが、強盗には狙われなかった。


 ホテルに帰り、一人で“フランスとのお別れ会”。
 バンザイヌードルの中身は、麺と粉スープ一袋のシンプルなもの。
 話のネタに買ったのだが、予想以上に美味しかった。


 今夜は、妙に静か。
 サルサの店が営業していないことに気づく。今日は日曜日だから、おやすみなのだろう。
 そういえば、山室さんの部屋にポルターガイストは出なかったそうだ。
 かなり残念。
(※前日の騒々しい音の正体は、結局謎のままでした……。)


 サルサの店が静かな代わりに、凄い雨の音。
 雷も鳴る。
 でも、バンザイヌードルやサラミ、ビールでお腹がふくれたぼくは、安らかな気持ちで眠りにつく。


28日のヘルスケア
 ウォーキング+ランニングの距離   14,4km
 歩数                25,477歩

 



次回、いよいよ最終回! 更新は4月1日(月)の予定です。お楽しみに!

 

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